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東京地方裁判所 平成5年(ヲ)2051号 決定

当事者 別紙当事者目録記載のとおり

主文

買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録1記載の建物の一階部分(一〇一号室及び一〇二号室)及び同目録2記載の建物に対する相手方らの占有を解いて東京地方裁判所執行官にその保管を命じる。

執行官は、その保管に係ることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

理由

1申立人は、売却のための保全処分として主文記載の決定を求めた。

2記録によれば、次の事実が疎明される。

(1)  申立人は、金融業務及び金融業の代行業務等を目的とする会社である。相手方A株式会社(以下「相手方A」という。)は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の所有者であり、相手方Bは、第三者である。

申立人は、昭和六三年三月、○○倉庫株式会社(以下「○○倉庫」という。)に対し、四億六〇〇〇万円を貸付け、その担保として、相手方A所有の本件建物等につき、抵当権の設定を受けた。

○○倉庫は、平成三年四月及び同年一〇月に支払うべき利息の支払を怠り、平成四年一月二二日期限の利益を喪失し、貸付元金四億六〇〇〇万円及び利息・損害金の支払義務を負うこととなった。

申立人は、平成四年二月一七日、本件競売の申立をし、同日開始決定がなされた。当裁判所は、同年九月一〇日、売却実施命令(期間入札、入札期間同年一一月一一日から同月一八日まで、開札期日同月二五日、売却決定期日同年一二月二日)を発した。

(2)  相手方Bは、平成三年一一月一二日付で、本件建物につき、賃借権設定仮登記(借賃一か月一平方メートル当たり七五円ないし三一六円、存続期間一〇年間分全額前払い済み、譲渡転貸ができるとの特約あり)及び根抵当権設定仮登記を経由した。

(3)  執行官が、平成四年三月、現況調査のため本件建物に臨場した際、本件建物は空き家であった。また、申立人の社員が、平成四年七月二二日及び九月三日に本件建物の占有状況を調査した際も、本件建物は空き家であった。ところが、申立人の社員が、平成四年一一月二日本件建物の調査に赴いたところ、本件建物に「B荘」の表示がされ、別紙物件目録1記載の建物の一部に洗濯物が干してあり、郵便受けに○野○一という名札が入っていた。なお、申立人が抵当権の設定を受けている○○倉庫所有の別の不動産について、平成四年七月二二日、申立人の社員が調査したところ、「B事務所」という名札が掲示されていた。

(4)  申立人の社員は、平成三年六月二八日、○○倉庫の代表者である○○○雄に会うため、ホテルに赴いたところ、相手方Bが○○○雄に同行してきた。相手方Bは、一見して暴力団員風の男であった。相手方Bは、○○倉庫の総務部長の肩書きの名刺を出した。相手方Bは、申立人の社員に対し、「これからは金融取引の交渉は全部自分がやる。○○証券では、○○倉庫は特金で損失を被っている。それにも関わらず子会社の申立人の取り立ては強硬すぎるのではないか。○○証券についてはトップと通じるルートがある。こちらが言うまで勝手に動かないでくれ。」などと高圧的な態度で述べた。なお、相手方Bと○○○雄は、平成二年八月三〇日、○○投信委託株式会社を訪れ、損失補償を迫ったが、その際、相手方Bは、○○○雄に金を貸しているので、○○倉庫に入っていると述べた(ちなみに、○○○雄は、銀座にある大規模なクラブを経営していたが、同クラブは暴力団員の客が多いとの風評のあるクラブであった。)。

また、申立人の調査によると、前記○野○一は、相手方Bの配下の者で、相手方Bの指図により本件建物に入居したものである可能性が高いが詳細は不明とのことであった。

(5)  そこで、申立人は、平成四年一一月一三日、本件建物につき、相手方らに対し占有移転禁止等の保全処分、相手方Bに対し本件建物からの退去等の保全処分の申立をし、同月一八日、当裁判所はこれを認容する決定をした。同決定は相手方Bに対しては同年一二月二日、相手方Aに対しては同月一八日送達されたが、相手方らは執行抗告の申立をしなかった。同年一一月二四日、執行官は同決定(公示を命じる部分)の執行のため、本件建物に臨場した。別紙物件目録1記載の建物の一階部分及び同目録2記載の建物については、空室の状態で相手方らが占有していた。同目録1記載の建物の二階部分には、第三者が居住していたが、同人らは、いずれも競売の妨害のために占有したことが疑われる者であった。本件建物に掲示された「B荘」の看板は掲げられたままであった。

(6)  平成四年一二月二日、本件売却許可決定がなされ、同月一六日、代金納付期限が平成五年二月一六日と定められた。

3以上認定の事実によれば、相手方Aと相手方Bは共謀のうえ、執行妨害を目的として、相手方Bの賃借権設定仮登記及び根抵当権設定仮登記を経由したうえ、入札期間の直前になって、本件建物を占有し、別紙物件目録1記載の建物の二階部分を配下の者に占有させたものであり、更に、別紙物件目録1記載の建物の一階部分及び同目録2記載の建物についても他の第三者に占有を移転するおそれがあると認められる。本件については、既に売却許可決定がなされているが、執行妨害を目的とする相手方らが、更に本件建物の占有を他の第三者に移転して占有関係が複雑になると、買受人は買い受けを諦め、代金を納付することなく、その資格を放棄するおそれがある。そして、再度売却に付された場合、執行妨害を目的として占有する者がいる不動産については、自由な競争入札による競売は困難となるから、相手方らの行為は本件建物の価格を著しく減少させるものであるということができる。また、相手方Aと共謀のうえ、執行妨害を目的として本件建物を占有している相手方Bは、所有者である相手方Aの占有補助者と同視することができるから、保全処分の相手方になるというべきである。

以上によれば、本件申立は理由があるから、相手方らそれぞれに対し金一〇万円の担保を立てさせたうえ、主文のとおり決定する。

(裁判官松丸伸一郎)

別紙当事者目録

申立人 ○○ファイナンス株式会社

代表者代表取締役 ○田○正

代理人弁護士 江橋英五郎

同 鈴木宏

同 松井文章

相手方 A株式会社

代表者代表取締役 ○○○雄

相手方 B

別紙物件目録

1. (一棟の建物の表示)

所在 世田谷区野沢○丁目○番地○、同番地○

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建

床面積 一階 153.00m2

二階 153.40m2

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 野沢○丁目○番○の○

種類 共同住宅

構造 木造二階建

床面積 一階部分 61.91m2

二階部分 153.40m2

のうち一階部分(一〇一号室、一〇二号室)(別紙図面斜線部分)

2. (一棟の建物の表示)

1. と同じ。

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 野沢○丁目○番○の○

種類 居宅

構造 木造一階建

床面積 一階部分 91.09m2

(別紙図面斜線部分)

別紙図面〈省略〉

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